Project no.2
浅草に灯る賑わい
浅草の賑わいに循環を与える,新たな都市の骨格を提案。浅草に関わる全ての人々を,街をつくるプレーヤーと捉え,その意思から領域への定着性の高い機能と流動性の高い機能を導く。全体空間は,縦横4.0m・高さ5.8mグリッドの常設フレームと,キャットウォークを主体に構成。季節や時間への応答を可能とする,仮説的な構造物の取り付けを容易にした。浅草の営みが,領域性を持たない場に反映し,人々の行動領域を拡張する空間の実現を目指した。
【募集要項(テーマ)】
「浅草・ヌーヴォー」
かつて,浅草は最先端の文化を発信する街でした。中でも,今回の対象敷地である浅草寺西側の一角は,明治,大正時代には浅草公園六区と呼ばれた一大歓楽街でした。当時,この場所には「浅草電気館」という日本初の常設映画館が存在しました。この「電気館」はその後,全国各地に広まり,映画が庶民の代表的な娯楽となっていきます。
渋谷の神谷バーには「デンキブラン」という日本初のカクテルがありますが,電気がまだ珍しいものだった当時,最新のモノ,目新しいモノは「電気○○○」と呼ばれていたようです。当時の浅草は,電気館とデンキブランに代表される,まさに時代の最先端を行く街でした。
現在浅草は,インバウンドの増加に伴い,気軽に「日本らしさ」を感じることができる観光名所として大いに賑わいを見せています。隅田川越しに見えるスカイツリーを望みながら江戸の情緒を残した,浅草独特の街並みや,浅草の祭や行事など,浅草ならではのハードとソフトは国外だけでなく,国内の人も魅了しています。
かつて電気館のあったこの敷地に,今再び最先端の浅草ー「浅草・ヌーヴォー」ーを提案してください。有名デザイナーによるブランド店や,組織事務所によるオフィスタワーといった従来の建築ではなく,浅草という地域から生まれ,地域と共に生き続ける新しいタイプの建築を期待します。 (ヒューリック学生コンペ募集要項より記載)
【審査員】
● 隈 研吾(審査委員長) ● 伊香賀 俊治(慶応義塾大学教授) ● 亀井 忠夫(日建設計 代表取締役社長)
● 根本 祐二(東洋大学 経済学部教授) ● 畠中 克弘(日経アーキテクチュア編集長) ● 吉留 学(ヒューリック 代表取締役社長)
浅草に灯る賑わい
古来より浅草は寺町として,広範囲に人々の集える場が展開した。人々は新しいものを求め,路上を埋め尽くし,文化の結節点として栄えた。形骸化されつつあるこの街に,賑わいの循環を与える"新たな都市の骨格"を提案する。人々の活動から形成される建築は,浅草に新たな文化的風景を創出する。
01. 文化がぶつかり合うまち「浅草」
最先端の文化を発信してきた当時の浅草では,あらゆるヒト・モノ・コトが屋外に溢れ出し,賑わいを演出している様子を伺うことが出来る。そうした人々の活動が,街へと還元されることで浅草という場所を形成してきた。
02. 観光地化により切り離された地域社会
浅草寺や仲見世通りなど,強力な集客コンテンツを持つ環境に恵まれた浅草は,観光地化が進められた。しかし,パッケージ化された街では,観光客たちは,示されたままに決まったルートを歩き,浅草のほんの一部しか知ることがない。また,直接の恩恵を受けない住民の支持を失い,地域社会と懸け離れたものになる危険性が存在する。
03. 賑わいの循環と行動領域の拡張
そうした浅草の課題点を解決するのは,人の活動である。時間,季節を通して変化する人々の活動を許容できる"余白としての場所"が,人々の行動領域を拡張させ,切り離された観光と,地域との繋がりの間を取り持つと考える。
04. 浅草に関わるすべての人によって生み出される空間
地元の人と外部の人を分けるのではなく,浅草に関わる人々すべてが"街をつくるプレーヤー"であると考える。「お祭りに参加したい」,「屋台を使ってものを売りたい」など,人々の自発的な意思から求められる機能を導くことで,時間や季節によって劇的に変化する空間が構成される。訪れた人々が否応なく,他の活動に参加していく状況を創出する。
05. 人々の活動を許容する環境の骨格
本計画敷地(黄色)は,観光客を含む人通りの多い道路(赤色)と,人通りの少なく地元の住民が多く行き交う道路(青色)という,性格の異なる2種類の道路が交錯する場所である。同時に,周囲を巨大な集客コンテンツに囲まれた,立地上の要に位置する。
敷地条件に合わせて,建物の全体構成を設定し,人々の流れを引き込み,人々の活動が重なり合いながら展開するよう企図した。
4面を道路と接する菱形状の敷地に対し,道同士を繋げるよう建築ボリュームを配置し,立体的な広場空間を上層部に持つよう計画する。そして,全体空間を構成する,縦横4.0m,高さ5.8mの常設フレームが構成される。
常設フレームに対し,螺旋状に人々を上層へと導くキャットウォークが取り付けられ,全体空間の構造的強度を高める。
建築ボリューム,常設フレーム,キャットウォークからなる全体空間に,季節や時間に応答する仮設的構造物が取り付くことによって,建築の全体像が生まれる。
常設フレームの詳細図。計12本の鉄骨を組み合わせてグリッド状に構成する。隙間のある構造体を採用することによって,様々な仮設的構造物の取り付けを容易とし,季節に対応したプロダクトの取り付けも可能としている。
建物の核となる建築ボリュームには,"領域への定着性の高い機能"を設定し,工房・浅草ライブラリ・稽古場・酒場・ゲストハウス・サテライトラボ・結婚式場などからなる機能群を配置した。それらの機能空間をキャットウォークが繋ぎ,各フロアに生まれた広場に対して,空間を縦に繋ぐ巨大な吹き抜け空間が挿入されることで,訪問者に立体的に広がる人々の活動を感得させる。
季節や時間ごとに変化する活動同士が否応なく重なり合い,人々の行動領域が拡張される。全ての人が街をつくるプレーヤーとなる。街で工房を営む職人が出入りし,その周りにマーケットが発生したり,巨大な吹き抜けを活用した祭の稽古が行われたりと,浅草の活動があらゆる場所で展開し,建物の全体像を変容させる。
06. 浅草の活動が反映された姿を創出する
建物内部へと螺旋状に引き込まれた街路が,人々を屋上空間まで流動的に導く。周りを取り囲む浅草の町並みと,背景に広がる浅草寺の緑,遠方に臨むスカイツリーへの眺望など, 浅草全体と呼応する構えを持つ。
2階のキャットウォーク上に位置する広場。祭の道具が収納・展示され,頭上の吹き抜け空間に人々の行き交う姿が展開する。
時間の経過によって,空間の質が大きく変わる。3階の屋外テラスでは夜の浅草を眺めるために人々が集い,テーブルを囲む。
大きな吹き抜けが空間を繋ぐ。屋上広場では,結婚式が行われ,浅草が2人の門出を祝福する状況が生まれる。
周辺街路から浅草の賑わいを建築内に引き込み,街へと表出させる。
浅草の賑わいに循環を与える"新たな都市の骨格"を創出することによって,浅草の営みが"領域性を持たない場"に反映し,人々の行動領域を拡張する空間の実現を目指した。
模型写真集
1次審査提出時ボード
共同制作者
(左) オ・ジョンミン (中) 奥野 智士 (右) 熊崎 悠紀