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Project no.5
​巨椋池跡地における生態系ターミナル構想

 耕作放棄地の増加と共に失われつつある湿地には,かつて,数万羽の渡り鳥が飛来した。

 本提案では,農業のみに依存しない新しい水面の活用のあり方を目指した。①生態系ターミナル ②野鳥観測所 ③農業体験施設などからなる生態系サービスを軸とした諸施設によって,水面を介したネットワークを構築し,人と自然によって育まれる壮大な環境を構想した。

【課題趣旨】

 先進国の社会が,第2次産業を中心とした工業化社会から,情報を主たる媒体として発展する脱工業化社会へと変貌する過程において,大都市とその縁辺部では,かつては一定の社会的役割を果たしながら,現在では使われなくなって放置された土地が目立つようになってきた。また,中山間地域では,林業や農業といった第1次産業の構造的問題によって,地域社会そのものの活力が奪われる町や村が出始めている。産業棄地と呼ぶことが出来るであろうこれらの土地では,その履歴ゆえに,汚染物質の存在や徹底した収奪の結果として,土地に本来備わっているべき自然環境の基盤が極めて脆弱なものとなったり,地域に固有の場所性が失われているケースが見られる。また,そのような低利用池の増加によって都市の活力が失われ,都市の安全性や地域に対する誇りの喪失といった問題も発生している。

 

 このような観点から,この課題では以下の3つの作業を要求する。

① 産業棄地と呼ぶに相応しい実在の土地において,その履歴と周辺状況を調査し,課題とポテンシャルを明らかにする。

② その場所において,自然環境の再生や,場所性の回復に貢献するであろう建築とランドスケープのプログラムを提案する。

③ そのプログラムを通じて,環境が再生されるプロセスを空間的・景観的に表現する。

特に,時間の経過が環境の価値に変換され,かつ,そのプロセスが建築やランドスケープのあり方に象徴的に表現されるような提案を期待する。

​巨椋池跡地における生態系ターミナル構想

​ 耕作放棄地の増加により,広大な水面を失いつつある巨椋池。年間を通して飛来してくる渡り鳥たちにとっても湿地の水面は,繁殖や羽休めの居場所として大きな役割を担っている。巨椋池における生態系の織りなす営みを,湿地を舞台に保全し,農業のみに依存しない新しい水面の活用のあり方を提案する。

01. 計画敷地と土地の歴史的背景

 対象地は,京都府 宇治市 久御山町にまたがる旧巨椋池跡地。ここは,宇治川・木津川・桂川に囲まれ,また西側で3つの川が合流し淀川になる風光明媚な土地である。かつては,巨大な池であったが,1933年から41年にかけて行われた大規模な干拓事業によって,現在は広大な耕作地帯となっている​。また,大きな水面の広がる,西日本有数の渡り鳥の飛来地となっている。

02. 提案する諸施設を水のネットワークによって結び,広大なエリアを再編する

 水面を介した広大なネットワークを構築し,人と自然によって育まれる環境を形成する。川と農業用水路を結び,舟を用いた移動手段をエリア一帯に敷く。水辺の保全と,そこに生息する鳥類への接近を可能とする。人が土地に適度に介入し,生物の多様性と,その生態系からの恵みをサービスとして受け取ることの出来る環境としてエリアを再編する。

【4つの主要エリア】

​① (Area1) 生態系ターミナル  ・・・ 最大の耕作放棄地を水辺へ還し,水面への船出を行う場とする。

② (Area2) 農業体験施設         ・・・ 農地の営みによって生まれる水面を保持し,情報を発信する。

③ (Area3) 野鳥観測所          ・・・ 見晴らしのある土手上の高台に設けられ,飛来する野鳥の観測を行う。

④ (Area4) 太閤の船着場    ・・・ 豊臣秀吉の史跡,太閤堤の通うエリアから水辺へのアクセスを可能とする。

03. (Area1) 生態系ターミナルより,動植物の待つ水面へと舟出を行う

​ 車両を用いた陸路から,舟を用いた水上の移動手段へと乗り換えを行う「生態系ターミナル」を構想エリアの起点として提案する。建物は,現在は駐車場として放置されている高速道路の高架下に配置し,施設内にアクセスすることによって,視界に広がる巨椋池の眺望を最大限確保することを意図した。

 生態系ターミナルの前方に広がる浅瀬には,蓮を植生させる。蓮は巨椋池にとって象徴的な植物で,古来より,蓮見という伝統的風習が伝えられてきた。水面の後退と共に風習も途絶えてきたが,水面と舟の動線を復活させ,今一度,蓮見を行える場を創出する。

 巨椋池には20種を超える渡り鳥の群れが,各季節ごとに水面に飛来する。広大な湿地と,蓮の群生地,そして水辺に植生する葦などの草むらが,渡り鳥の繁殖行為のポイントとなる。

​ 生態系ターミナルを起点とした,水のネットワークを構築することにより,鳥の飛来への備え,土地の文化的な行事の復活,そして水辺環境の維持にも繋がる農業を支えていく。

04. 巨椋池を縦断する高架を空間に取り込み,融合して建つ

​ 耕作放棄地であった土地を浅瀬へと還し,高架の列柱と融合するよう水辺へと建築ボリュームを張り出して配置する。高架空間を取り巻くように舟の周遊ルートを設け,他エリアへの出船と,帰還を行えるようにする。

 生態系ターミナルにアクセスした訪問者は,ターミナル内で水辺のレクチャーを受けてから舟に乗船する。高架の列柱に回り込むように融合し,各ルームが浅瀬に対して様々な単位のまとまりを持つよう計画する​。訪問者が水辺への理解を深め,これから向かう生き物の世界への期待感を高められるような,水辺への距離の近さを意図した。

05. (Area2) 農業体験施設が水面に集まる動植物と,人間の営みとの結節点を創出する

 農業体験施設は,訪問者が巨椋池での農業を学ぶことが出来ると同時に,地域の農業活動を支える役割を担う。農業に携わる次の世代を育むと共に,耕作放棄地として放置されてしまった畑や水田の管理・整備を行う。建物の周囲に水路を導き,生態系ターミナルを出船した訪問者や,陸路からの訪問者を受け入れる。人間の営みと動植物の営みが,互いに共存し合う関係を生み出す。

06. 人の営みによって生まれる水面に無数の渡り鳥が飛来する

 建物を囲む水田の配置は,既存の耕作放棄地の再生を意図しており,農業体験施設の実習を継続することによって維持管理していく。そして,建物にはL字型の平面プランを採用し,周囲の実習用水田に対して,全ての部屋が接するように計画する。建物を訪れた訪問者は,まずレクチャールームで講習を受ける。研修スペースは,農業で扱う道具類の収納展示スペースとなっており,農業を終えたトラクターが格納される様子を間近で体験することが出来る。また,収穫物を調理し実食することのできる調理スペースでは​,南北両方に配置された水田を見据えながら,食材に対する理解を深めることが可能となる。水田を望むという大きな構成の中に,小さな坪庭を複数抱えるプラントとしたことで,各ルームの水田との対峙の仕方に変化を与えた。

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