Project no.6
遍歴を重ねる庭の住まい
「老いること」=「蓄積を重ねること」と捉え,各住戸とその庭,緩衝スペースの関係にバリエーションを備え,まちとの関係が住み手の暮らしぶりによって微細に更新され続ける集合住宅を目指した。
自然の持つ生態系のリズムの中に身を置けることで,老いていく時間と命を育む時間を重ねようと考えた。住み手が変わっても,植木や地形,作庭のノウハウが継承され,庭に人の生活の痕跡が蓄積していく。そのことにより,様々な単位の庭の連なりを形成し,個々の庭をひとつの大きなまとまりとして利用できるよう企図した。
【募集要項(テーマ)】
「100歳の集合住宅」
人は老いた時に,どのように暮らすのでしょうか。そこに求められる空間は,若い世代と同じ部分もあれば,異なる部分もあるでしょう。体力の衰えや,生活のリズムなどは,住まいにどのような影響を与えるのでしょうか。加えて若い時とは異なる人とのつながり,例えば,お年寄り同士や親族とのネットワーク構築も重要になるのだと思います。
歳を重ねたときの暮らしが,どうすれば素晴らしいものとなるのか,それを実現する集合住宅を考えてください。そこには,多世代で暮らしたり,ライフスタイルの似た者同士が暮らしたり,人間以外のものを取り込む可能性があるかもしれません。また,敷地を超えた関係性がもたらす暮らしの豊かさがあるかもしれません。
敷地は,東京都心で緩やかな勾配のあるところです。そこに30戸の集合住宅を想定してください。学生の皆さんの将来を考えても,または身近な人を想定しても良いかもしれません。そうした集合住宅を考えることは,高齢者のためだけではなく,新しい集合住宅の価値を生み出すものとなるのだと思います。空間のつくり方が変わるのです。単なる高齢者の住宅とは違った,新しい集合住宅を提案してください。 (第9回 長谷工 住まいのデザインコンペティションより記載)
遍歴を重ねる庭の住まい
「老いること」を「蓄積を重ねること」とポジティブに捉え直し,各住戸間に様々な単位の庭を持つ集合住宅を計画した。庭に生活の痕跡が蓄積していくことで,町との関係が住み手の暮らしぶりによって,微細に更新され続ける集住環境を目指した。
自分よりも大きなパターンに参加しているのだと感じることが出来る点に,庭の持つ可能性を見出した。庭に住民の作業の痕跡が蓄積していき,作庭を通じて住民の暮らしぶりが継承されていく。ひとつの住戸(生活環境)が人の手を渡って住み継がれていく。
庭の連なりが街を結ぶ。建物の中央に通り抜けを設け,南側の公園から北側のエリアへの往来を可能とする。中央の通り抜けに向けて各住戸の庭が面することによって,多層的な緑地帯を形成する。
敷地の持つ高低差を踏襲しながら,500mmずつ段差を持たせ,庭を巡る回遊空間を創出する。段差の連なりを生むことによって,交流や休憩に適した場所や,程よく囲われた場所,景色の良い丘のような場所,あるいは湿気を帯びた坪庭のような場所が生まれる。外から見たり,通り抜けただけでは把握しきれない奥行きを与えた。
庭を持つ住戸が住み継がれていくことによって,庭ごとに異なった樹木や樹齢を持つ木々が植生していく。そのことによって,庭の繋がりの間に体験の連鎖が生まれることを意図した。
住戸と坪庭に挟まれた中間領域に,様々な年代の住民が集まる。
中央の通り抜けには,いくつもの庭が複層的に集まり,庭を介した交流のネットワークが生まれる。
庭より掘り込まれた屋内住戸での団欒。心休まるひとときを過ごしながら,庭の自慢話がはじまる。
提出時ボード